京都地方裁判所 平成8年(ワ)3331号 判決 1999年3月18日
主文
一 原告の被告に対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一1 被告の平成八年一〇月二日付け理事会における、原告につき代表理事を解任し非常勤理事とする旨の決議は存在しないことを確認する。
2(1の予備的請求)
右理事会における、右決議は無効であることを確認する。
3(2の予備的請求)
右理事会における、右決議を取り消す。
二1 被告の平成八年一〇月二一日付け総代会における、原告につき理事を解任する旨の決議は無効であることを確認する。
2(予備的請求)
右総代会における、右決議を取り消す。
三1 被告の平成八年一〇月二一日付け総代会における、理事として山本英嗣、村井隆行、岡野健一、原田修及び増田寿幸を、監事として馬場秀晃をそれぞれ選任する旨の決議は無効であることを確認する。
2(予備的請求)
右総代会における、右決議を取り消す。
四 被告は、原告に対し、金二四五七万八一六二円及び内金三五一万一一六六円に対する平成八年一〇月二五日から、内金三五一万一一六六円に対する平成八年一一月二五日から、内金三五一万一一六六円に対する平成八年一二月二五日から、内金三五一万一一六六円に対する平成九年一月二五日から、内金三五一万一一六六円に対する平成九年二月二五日から、内金三五一万一一六六円に対する平成九年三月二五日から、内金三五一万一一六六円に対する平成九年四月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告は、原告に対し、金二八〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
原告は、信用金庫である被告の代表理事であったところ、被告は、平成八年一〇月二日、被告の理事会が原告を代表理事から解任し非常勤理事とする旨決議し(以下「本件理事会決議」という。)、同月二一日、被告の総代会が、原告の理事解任を決議した上(以下「本件総代会決議1」という。)、理事として五名、監事として一名をそれぞれ新たに選任する決議をした(以下「本件総代会決議2」という。)として、原告の理事及び代表理事としての地位を否定するに至った。
本件は、原告が被告に対し、本件理事会決議の不存在確認(予備的に、無効確認又は決議取消-請求一)並びに本件総代会決議1及び2の無効確認(予備的に、決議取消-請求二、三)を求めるとともに、原告の理事及び代表理事としての地位に基づき、任期満了までの報酬ないし報酬相当額及び遅延損害金(起算日は各支払期日の翌日-請求四)、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料及び遅延損害金(起算日は、不法行為より後の日-請求五)の各支払を求めるものである。
二 前提事実
次の各事実は、当事者間に争いのない事実及び文中掲記の各証拠(以下において、人証については、「原告一二頁」のように供述者と該当頁数をもって示す。ただし、粂田証人については、第一〇回口頭弁論期日における証言を「粂田<1>」とし、第一一回口頭弁論期日における証言を「粂田<2>」とする)により認定した事実であり、本件の争点を判断する上での前提となる事実である。
1 当事者
(一) 被告
被告は、大正一二年九月二七日に設立され、信用金庫法(以下「信金法」という)により,預金又は定期積金の受け入れや会員に対する資金の貸付等を目的とする法人であり、京都府、滋賀県、大阪府の一部を地区とし、会員数一二万六八一五人、出資の総口数は一億三四〇八万〇二三〇〇口(一口一〇〇円)、払込済出資総額は一三四億〇八二三万円である。
信用金庫は、昭和二六年に信金法が制定されて誕生した中小企業者や勤労者など国民大衆を対象とする会員組織の金融機関である。明治半ば以降、各地に信用組合の設立が見られ、明治三三年には、産業組合法が成立し、その後、大正六年にこれが一部改正され、都市における庶民の金融機関として「市街地信用組合」制度が創設された。市街地信用組合を都市における庶民の金融機関として一層の発展を期するため、昭和一八年に産業組合法とは別個に市街地信用組合法が制定され、市街地信用組合は産業組合から分離独立した昭和二四年には、前後の中小企業対策の一環として中小企業等協同組合法が作られたが、市街地信用組合は信用協同組合として産業組合、商工協同組合などとともに同じ法律により律せられ、昭和二六年六月信金法という単独法が制定され、信用金庫は、同法によって規律され、大蔵大臣が監督することになった。
(二) 原告
原告は、昭和三六年四月に職員として被告に入庫し、河原町支店長、総務部長等を歴任した後、昭和五七年四月理事に、昭和六一年七月代表理事(専務理事)にそれぞれ初めて選任され、以後再任を重ね、直近では平成六年四月二六日開催の総代会において理事に再任され、右同日開催の理事会において、代表理事(専務理事)に再任された。
なお、被告においては、一定規模以上の融資については、その融資実行を審議する融資審議会を設置しているところ、原告は、平成元年一月から平成八年六月まで同審議会の副議長の職にあり、その後理事解任までは議長の職にあった。同審議会の審議対象は、貸出金限度額八億円を超過する貸出であり、株式会社キョート・ファイナンス(以下「キョート・ファイナンス」という。)に対する貸付も審議対象とされていた。
2 本件理事会決議と原告の代表理事解任登記
被告は、原告に関し、議長井上達也理事長(代表理事―以下「井上理事長」という)名義で平成八年一〇月二日付けの理事会議事録(以下「本件理事会議事録」という。)を作成している。その記載内容は、「寺岡専務理事は、代表理事としての忠実義務や、経営者としての善管注意を怠り、代表理事として妥当でない言動があったので、寺岡専務理事の代表理事を解任し、非常勤理事とすることについての緊急動議が提出され、採決の結果、賛成一四名、保留一名、反対一名となり、本動議が賛成多数で可決承認された。」というものであり、被告は、同議事録に基づいて、同年一〇月一四日、原告を被告の代表理事から解任する内容の代表理事の変更登記手続をした。
3 本件総代会と決議1・2
被告理事会は、平成八年一〇月一一日、原告の理事解任(第一号議案)及び新役員の選任(第二号議案)を議題として同月二一日に被告総代会を開催することを決議し、同月二一日、右理事会決議に基づいて招集された被告臨時総代会(本件総代会)が開催された。
そして、第一号議案につき、原告を理事から解任する決議(本件総代会決議1)がなされ、第二号議案につき、新たに、理事として山本英嗣、村井隆行、岡野健一、原田修及び増田寿幸を、監事として馬場秀晃をそれぞれ選任する旨の決議(本件総代会決議2)がなされた。
4 キョート・ファイナンスについて
キョート・ファイナンスは、昭和四〇年に被告、地元の自動車ディーラー各社及び地元の有力者の共同出資により、自動車ローン専門会社として設立(当時の商号は、日本自動車ローン株式会社)され、その後、損害保険代理店、自動車リース、住宅ローン保証等の業務も行うようになり、昭和五八年、医療機関勤務者を対象とするローン契約等を行っていた株式会社ドクターサービスセンターを吸収合併し、株式会社ジャルファイナンスに、昭和六二年に現商号にそれぞれ商号を変更した(甲二〇、二四の四五・五四、乙二六、原告一〇頁)。
平成三年以後においては、バブル経済崩壊の影響に加え、イトマン事件に関連する先への融資をしていたことから同事件の発覚により、金融機関からの借入れによる資金調達が困難となるとともに、一〇〇〇億円を超す不良債権を抱え、資金繰りが逼迫するようになった(乙二六)。
なお、キョート・ファイナンスの代表取締役として、平成二年七月五日から平成五年三月三一日まで訴外山段芳春(以下「山段」という)が就任しており、また、同人は、平成六年六月二七日から平成八年一〇月二八日まで取締役に就任していた。
三 争点
1 本件理事会決議について
(一) その存否
(二) 無効事由の有無(招集手続の重大な瑕疵)
(三) 取消事由の有無(理事解任の正当事由)
2 本件総代会決議1について
(一) 無効事由の有無(理事会の発議に基づく総代会決議による理事解任の可否)
(二) 無効・取消事由の有無(原告の理事解任につき正当事由の要否及び存否)
3 本件総代会決議2について
(一) 無効事由の有無
(二) 取消事由の有無
4 理事及び代表理事としての報酬ないし報酬相当額の請求の可否
5 被告の原告に対する不法行為の存否及び損害
四 争点に対する当事者の主張
1 争点1 (一)(本件理事会決議の存否)について
(一) 原告
本件理事会は、井上理事長が急遽被告本店八階役員大会議室に理事を呼び出して集合しただけであるから、本件理事会の招集手続には瑕疵があるうえ、議長である井上理事長及びこれに同調する粂田猛専務理事(代表理事)、島田茂理事(支配人)(以下「粂田理事」、「島田理事」といい、井上理事長をあわせた三役員を「井上理事長ら三役員」ということがある。)から、原告に対し、罵声が浴びせられるなど暴力的、非人間的な言動が繰り返されていただけで、議案の提出、議案の理由の説明、議案の採否について賛否を問うという審議の手続を欠き、かつ、原告の代表理事解任の是非につき、原告に釈明の機会を与えないなど、何らの審議も経ていない。
よって、本件理事会決議は存在しない。
(二) 被告
井上理事長が緊急に全理事を参集させた緊急理事会において、原告の言動について理事らから十分な質疑が行われ、原告に対しても十分に発言・応答の機会が与えられたが、原告は、何ら自己の言動についての合理的な説明を行わず、原告において被告の不利益を図る言動を行ってきたことが判明し、理事らから「原告の代表理事解任、非常勤理事選任」の緊急動議が出され、本件理事会議事録記載のとおりの採決が行われたものであって、本件理事会決議は存在する。
2 争点1(二)(本件理事会決議の無効事由の有無―招集手続の重大な瑕疵)について
(一) 原告
被告定款(甲六-平成八年一〇月一一日現在のもの。以下同じ)一九条五項本文は、理事会を招集するには、会日の三日前までに各理事及び各監事に対してその通知を発することを要件としている。信用金庫の社会的・公共的使命からして、理事会決議がなされるためには、議案について十分な審議が尽くされることが必要であり、右規定はその目的を達するための手段であり、この点の瑕疵が理事会の十分な審議と決議に支障を及ぼす場合は、その決議は無効というべきである。しかるところ、本件理事会の招集手続は、井上理事長が急遽被告本店八階役員大会議室に理事を呼び出しただけであり、予め議案を示されることもなく、事前に原告の解任について話し合われたことさえなく、解任の理由とされたキョート・ファイナンスの不良債権の処理方針について、十分な審議をするための資料等も存在しなかったのであって、当日、原告を解任するための緊急の必要性があったとはいえない。したがって、本件理事会の招集手続には重大な瑕疵があり、原告を代表理事から解任するかどうかにつき十分な審議が妨げられており、本件理事会決議は無効である。
(二) 被告
被告定款一九条五項ただし書は、緊急の必要がある場合には同条本文の期間を短縮することができるとしているところ、本件は緊急の必要がある場合であり、被告定款一九条五項ただし書に該当する。
また、被告定款一九条六項は、理事会は理事及び監事全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができるとしているところ、本件では理事及び監事全員の同意があり、被告定款一九条六項に該当する。
よって、いずれにせよ、本件理事会決議は被告定款に違反せず、有効である。
3 争点1(三)(本件理事会決議の取消事由の有無―理事解任の正当事由)について
(一) 原告
信用金庫は、国民大衆のために金融の円滑を図り、その貯蓄の増強に資するためにその存在が認められた公共的性質を有し(信金法一条)、そのような信用金庫の性質からして、信用金庫の代表理事を解任するためには,信用金庫との信頼関係の喪失等の正当な事由が認められることを要すると解すべきであるところ、原告が被告に対する信頼関係を失うについて正当な理由がないことは次の点から明らかであるから、本件理事会決議には、取消事由がある。
(1) 原告と被告現執行部との対立は、キョート・ファイナンスの債務処理につき、被告が母体行責任を問われることになった場合の対策を検討する必要があるかどうかの点にあり、このような経営方針についての意見の相違が、直ちに善管注意義務ないし忠実義務違反となるものではない。
(2) そして、被告のいう適正化措置は通用しないものであり、被告とキョート・ファイナンスとは、設立経緯や株主構成、人的交流等から、社会的には被告と一体とみられているので、被告がキョート・ファイナンスの母体行責任を問われる蓋然性は非常に高い。
かかるところ、原告は、キョート・ファイナンスがいわゆる闇世界・暴力団絡みに一五〇〇億円もの融資をして、それが不良債権化してしまっていることについて、被告としてきちんと対応する必要があると考え、キョート・ファイナンスを被告から切り離す方法として、キョート・ファイナンスの不良債権を外資系企業に時価相当額で譲渡し、整理して売却する計画を検討していたのであって、被告の代表理事として当然なすべき行為をしていたものである。
(3) 原告が被告の他の理事らに説明した内容は、被告がキョート・ファイナンスの債務を負担することになる蓋然性が高いこと、被告の破綻を回避するために、ある会社との間で不良債権処理案を話し合っていること、その処理のための条件として交渉相手の会社からは、井上理事長ら三役員の解任を要求されていること、その条件を前提に右処理案を進めていきたいと思っていることなどであって、これらは虚偽のことではない。しかも、井上理事長ら三役員の解任はキョート・ファイナンスの問題を発生させ、また、これを隠蔽した者の当然の処遇であって、キョート・ファイナンスの問題を処理するための不可欠の前提である。
(4) 原告は、被告の将来を真剣に考えた上で行動したものであって、自己又は第三者の利益を考えたこともないし、また、被告を支配する意図も全くなかった。キョート・ファイナンスの不良債権を発生させた責任者である井上理事長ら三役員の退任がなされた場合、代表権を持つ理事は原告のみとなるため、便宜上、暫定的に理事長代行を務めようとしたにすぎないのであって、それは、あくまで被告の利益を図るための方策の一環である。
(二) 被告
原告には、被告の代表理事として、次のとおりの善管注意義務ないし忠実義務違反の言動があり、代表理事としての適格性を欠くと理事会において判断されて代表理事を解任されたものであり、本件理事会決議に取消事由はない。
すなわち、被告は、昭和五〇年七月三日付けの大蔵省銀行局の通達である「信用金庫とその関連会社との関係について」に従い、近畿財務局の指導の下、キョート・ファイナンスとの関係の適正化を開始し、昭和六三年には、「適正化措置済みの会社」として、監督官庁からも認められている。したがって、昭和六三年以降、被告にとってキョート・ファイナンスは、関連会社ではなく、単なる一貸出先となっている。しかも、被告においては、理事の中で職務分担制をとっているところ、原告は、平成八年四月二二日から、金融市場本部長を担当する理事であり、キョート・ファイナンス問題を担当していない。それにもかかわらず、原告は、次のように、偽計により、理事らに被告の重要な経営方針について働きかける行為をするとともに、理事会の授権を受けることなく、また、執行機関としての権限のない事柄について独断で被告の不利益を図る行動をとった。
(1) 原告は、平成八年八月二四日、松井清理事(以下「松井理事」という)に対し、紹介したい人がいるとしてブライトンホテルに呼び出し、原告は、親戚の弁護士であるとして佐藤光則弁護士(以下「佐藤弁護士」という)を紹介し、被告はキョート・ファイナンスの一五五〇億円の他行に対する債務を負担しなければならない、外資系企業がキョート・ファイナンスを買い取る、この計画はキョート・ファイナンスを実質的に支配する山段の意向を受けてやっているので絶対内密にしてほしいなどと説明をした。
(2) 原告は、同年九月一三日及び同月一七日、青木俊次理事(以下「青木理事」という)に対し、原告の専務室において、キョート・ファイナンスの一五五〇億円の債務について被告が責任を負わねばならないと告げた。
(3) 原告は、同年九月一五日ころ、榊田隆之理事(以下「榊田理事」という)に対し、休日に面談し、キョート・ファイナンスの一五五〇億円の債務を母体行として被告が引き受ける必要があること、その場合被告は破綻するのでそれを回避するために東京のある会社がキョート・ファイナンスを買い取る案を八月から受けていること、買い取り条件としてその会社から井上理事長ら三役員の解任を要求されていること、その条件を呑んで右買い取りを進め、しばらくは原告が先頭にたって金庫経営にあたることなどを話した。
また、原告は、榊田理事に対し、自分の行動が山段の意向を受けての行動であることを明言した。
さらに、原告は、同月一七日、榊田理事に対し、榊田理事の母が有するキョート・ファイナンスの株式について資金の取り戻し、株式の売却に関する話をした。
(4) 原告は、同年九月下旬ころ、勝山昌平理事(以下「勝山理事」という)に対し、山段の指示で一連の行動をしていると告げ、井上理事長ら三役員解任を求める書面に署名を求めた。
(5) 原告は、同年一〇月二日、榊田理事に対し、勝山理事、松井理事、成川元次理事、西林保樹理事が既に井上理事長ら三役員解任を求める書面に同意しているなどと虚偽の事実を告げて、同書面への署名を求めた。
(6) 原告は、被告の理事会等被告の正式機関に諮ることなく、また、井上理事長や他の代表理事に諮る事なく、同年一〇月二日までと同月三日に大蔵省本省の担当課長補佐等と面談し、同月七日には近畿財務局の担当者と面談した。原告は、これら面談において被告がキョート・ファイナンスと一体であるとし、被告がキョート・ファイナンスの債務弁済をすることを前提とした話をした。
4 争点2(一)(本件総代会決議1の無効事由の有無―理事会発議に基づく総代会決議による理事解任の可否)について
(一) 原告
信金法三八条一項は、信用金庫の会員は、総会員の五分の一以上の連署をもって、役員の解任を請求することができるものとし、その請求につき総会において出席者の過半数の同意があったときは、その請求に係る役員は、その職を失うと規定しており、信用金庫は、この手続以外をもって、理事を解任することはできない。本件総代会決議1は、理事会の発議に基づいて理事の解任を決議したものであり、信金法に違反し、無効である。
(二) 被告
信用金庫の理事の解任手続は、信金法三八条の場合に限られるものではなく、本件総代会決議1は、信金法に違反しないから、有効である。
5 争点2(二)(本件総代会決議1の無効・取消事由の有無―原告の理事解任につき正当事由の要否及び存否)について
(一) 原告
信金法一条、三八条二項の趣旨からして、信用金庫の理事を解任するには、当該理事に法令又は定款違反の事実が認められなければならないと解されるところ、前記3(一)のとおり、原告につきそのような事実はないから、本件総代会決議1は、その内容が法令に違反しており、無効あるいは取消事由が存在する。
(二) 被告
前記3(二)のとおり、原告には、善管注意義務ないし忠実義務違反があるので、本件総代会1は、有効で、かつ、取消事由は存在しない。
6 争点3(一)(二)(本件総代会決議2の無効事由及び取消事由の有無)について
(一) 原告
被告の理事の定員は二〇名である(被告定款一七条)ところ、本件総代会決議1が無効又は取り消される以上、本件総代会決議2は、原告を含めて一六名の理事が存在するにもかかわらず、更に五名の理事を選任したものである。
よって、本件総代会決議2は、無効あるいは取消事由が存在する。
(二) 被告
本件総代会決議1は、前記のとおり有効で、かつ、取消事由も存在しないから、これを前提とする本件総代会決議2にも無効・取消事由は存在しない。
7 争点4(理事及び代表理事としての報酬ないし報酬相当額の請求の可否)について
(一) 原告
原告に対して、平成九年四月中に開催された被告の定期総代会における理事の選任に伴う任期満了までの報酬が支払われるべきであるが、原告は、平成八年九月二四日に報酬の支払を受けたのを最後に、その後の報酬の支払を受けていない。
原告の平成七年度の所得合計は四二一四万円であり、これを一二か月で割ると、一か月あたりの金額は三五一万一一六六円になるから、平成八年一〇月から平成九年四月まで月額三五一万一一六六円の報酬が支払われなければならない。
(二) 被告
原告は、平成八年一〇月二日に被告の理事の地位を解任されており、被告が原告に対し報酬を支払う関係にない。
8 争点5(被告の原告に対する不法行為の成否及び損害)について
(一) 原告
被告は、故意又は過失により、理事会決議と称して、原告の代表理事としての地位を剥奪し、また、違法な手続による総代会決議と称するものにより、原告の理事としての地位を剥奪した。また、原告が代表理事ないし理事たる地位を未だに有し、その旨主張して法的手続を履践しているにもかかわらず、原告が代表理事として使用する部屋を、原告に無断で、何の法的手続にもよらずに、原告の所有物を撤去し、何ら本件と関係のない原告の親族に対して、執拗に電話を架け、原告が加入している各種の健康保険や生命保険の解約手続を行うなどの違法行為を行った。
被告のこれら一連の行為により、原告は、社会的な名誉及び信用を奪われ、死亡と等しい精神的な損害を被っており、これを金額に見積もると二八〇〇万円が相当である。
(二) 被告
原告の右主張は、否認ないし争う。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(一)(本件理事会決議の存否)について
1 招集手続について
(一) まず、本件理事会の招集手続に瑕疵があるかどうかについて検討する。
信金法三九条が理事に関して引用する商法二五九条ノ三は、「取締役会ハ取締役及監査役ノ全員ノ同意アルトキハ招集ノ手続ヲ経ズシテ之ヲ開クコトヲ得」と規定し、被告定款一九条六項も右と同旨の規定をおいている。
右規定は、役員全員の同意を得て所定の招集手続を省略することができる場合について何らの留保もしておらず、理事及び監事全員の同意があれば、緊急性の有無に関わらず、所定の招集手続を省略することができるとの趣旨と解され、かつ、省略することのできる招集手続のうちには、被告定款一九条五項の定める事前の招集通知の手続も含まれると解される。
そこで、本件理事会が、理事及び監事の全員の同意に基づいて開かれたかどうかが問題となる。
(二) しかるところ、本件理事会議事録(甲六-原告を除く理事及び監事全員の記名捺印がなされている)には、議案として、「一部役員の言動に関して真意を糺す件」との記載があり、議事の経過として、以下の記載がある。
「午後四時、井上理事長は、先刻一部役員による言動に関してその真意を糺す必要があるため、急遽会議を招集したが、この会議には全役員(理事一六名、監事二名)が出席しているので、これを議案として本会議を臨時理事会に切り替えたい。就いては、理事会の開催手続きについて、本理事会は緊急のことであり、理事及び監事全員の同意を得て開催したいとの発言があり、全員に諮ったところ、全員異議なくこれに同意した。続いて井上理事長は理事会規定に基づき議長席に着き、理事会の開会を宣言し、直ちに議案の審議をした。」
そして、被告は、本件理事会は、右議事録記載のとおり、理事及び監事の全員の同意の下に開催されたと主張している。
(三) 平成八年一〇月二日午後四時に井上理事長の呼出しによって、被告本店八階の役員大会議室に原告を含む理事及び監事全員が集合して会議が開かれたことについては当事者間に争いがない。原告は、右会議について、理事会と称するに値するような実質的な審議がなされていないとは主張しているが、この会議を理事会とするとの提案がなかったとか、その提案に対し、理事又は監事のいずれかの者が同意しなかったとの主張はしていないし、本人尋問においてもそのような供述はしていない。そして、そのほかにも、本件理事会を開催するにつき、理事及び監事全員の同意を得たとの点につき、議事録の記載に反する証拠はない。かえって、常務理事(総務担当)であった木村彰男は、議事録記載のとおりの経過で、臨時理事会として開催することが決定され、原告も同意したと説明している(乙二一=同人の陳述書)。
(四) 以上からすると、本件理事会が、理事及び監事の全員の同意に基づいて開かれたと認めることができ、本件理事会の招集手続に瑕疵は認められない。
2 議事の実態について
(一) 次に、招集手続に瑕疵がなかったとしても、理事会決議が存在するといえるためには、当該決議が審議を経た上での結論でなければならないところ、原告は、本件理事会決議については、何らの審議も経ていない旨主張するので、この点について検討するに、本件理事会議事録(甲六)における本件理事会の議事の進行についての記載は、おおむね次のとおりである。なお、会議は午後四時から午後六時五分まで行われた旨の記載がある。
(1) まず、井上理事長より、原告が代表理事の職にありながら、それにふさわしくない言動があったとして、それに関する事実説明があり、各出席役員からその真偽を確認する質疑応答がなされたが、原告より明確な回答が得られなかった。その結果、各理事より原告に対し、辞任要求がなされたが、原告は、これを拒否した。
(2) そこで、原告につき、代表理事としての忠実義務や、経営者としても善管注意を怠り、代表理事として妥当でない言動があったので、原告の代表理事を解任し、非常任理事とすることについての緊急動議が提出され、採決の結果、賛成一四名、保留一名、反対一名となり、本動議が賛成多数で可決された。
(二) そして、乙二一(木村彰男陳述書)によれば、本件理事会の審議の概要は以下のとおりであると認められる。
(1) 議長(井上理事長)から、原告が、先刻、「他の役員は既に署名している。」と偽って榊田理事に書面を示して署名を求める行動に出たと説明があり、全員にその書面(乙二-以下「本件決意書」という)が配布された。この書面には以下のような記載がある。
「第一 京都信用金庫は、七〇年にわたり地域に育てられ、職員も地域を愛し、地域経済の発展に寄与してきた。金庫職員はささやかながら、この職場に愛着と誇りをもって仕事をしてきた。
しかし、ここ数年、理事長井上達也、専務理事粂田猛、理事(支配人)島田茂三名が金庫を支配し、恐怖政治が横行するようになってから、異常な職場になってしまった。右三名は、この恐怖政治による金庫支配を隠れ蓑にして、当金庫が関与していたキョート・ファイナンスが闇世界に対してなした貸付金約一五〇〇億円に関する責任、及び右三役員(及びキョート・ファイナンス役員)の刑事責任の追及を免れようと種々画策している。このため、金庫職員の士気は低下し、職場の雰囲気も暗くなる一方である。右事情をすでに金融当局にも知れわたり、秋のノンバンク整理の時期までに、役員自らの自浄作業で金庫の腐敗した今日の姿を改めるならば、金庫が現下の厳しい金融市場のなか、支援すると指導を受けた。
私はここに至り、金庫七〇年の歴史を守り、金庫職員二〇〇〇名の進路を誤らせないために志を同じくする他の理事と結束し、次のことを決意した。
記
理事達と連名にて、定例理事会の席上次の事項を決議する。(中略)右の決意のもと私はここに行動することを約束する。
(一) 井上氏理事長の解任、代表権の剥奪。
(二) 粂田氏の専務理事職解任、代表権の剥奪。
(三) 島田氏の支配人職の解任。
(四) 寺岡氏の理事長代行への選任
(以下(二二)項まで略)
第二 右理事会決議の後、臨時総代会を招集し、健全な新執行部を確立する。
これらに向けて前記三名の攻撃にひるむことなく、最後まで他の理事と団結して、金庫の伝統を守り、金庫職員二〇〇〇名のため、本書に署名・押印する。
平成八年 月 日」
(2) 続いて、榊田理事からその経緯について、概要、以下のような説明があった。
原告の要請で九月一六日に都ホテルで会談し、原告から、キョート・ファイナンスを整理するにあたり、ある人からその再建を支援する用意があるが、支援の条件として井上理事長ら三役員の解任を求められており、金庫存続のためにその提案を受け入れたいので賛同してほしいという話があった。本日(一〇月二日)、原告の専務室に呼ばれ、本件決意書を示されて署名を求められ、コピーを入手するために署名だけして、コピーを要求した。
キョート・ファイナンスの件について、知りうる範囲で調査したところによれば、キョート・ファイナンスの融資はあくまでも自己責任において行ったものであり、原告の提案は筋が通らない。一流の金融機関を目指し、井上理事長を中心として全役職員が一丸となって努力しているときに、このような行動は許せない。
(3) これに対し、議長が原告に意見を求めたところ、原告は、「キョート・ファイナンスと金庫とは世間は無関係とはみなしていない。ダーティなところと訣別し、この金庫を救わなければならない。そのために現キョート・ファイナンスの経営陣と、こちら側のそれに関わった人に退陣してもらい、キョート・ファイナンスの経営権を買い取っていただこうという条件を提示した。」と説明し、議長から買取先を尋ねられたが、原告は明らかにしなかった。
(4) そのような経緯の中で、各理事から、被告がキョート・ファイナンスに貸し付けた九五億円について被告に責任があるとしても、キョート・ファイナンスの一五五〇億円の貸出分については、各金融機関が固有の判断と責任において融資を実行し、それをキョート・ファイナンスが独自の判断で貸し付けているものであり、大蔵省の適正化指導を受けて法的に別個の存在となっている被告が責任を負う理由はないという認識が示され、信用回復に全力を尽くし、全役職員が一致団結しなければいけないときに、原告の行為は背信行為であり、退陣を要求するという意見が続出し、本件決意書に賛同していたと原告が榊田理事に告げた成川常務理事と西林理事からも虚偽であるとの説明があった。
その中で、本件決意書の作成者について質問がなされたが、原告は、自分が作成したものではないとしながら、作成者については回答を拒否し、他の理事らの右のような認識に対しては、キョート・ファイナンスの貸付について被告に認識があるとされたらどうするのか等と反論したが、他の理事らを納得させるだけの説明はなされず、キョート・ファイナンスの買取先を開示できない理由やその交換条件として井上理事長ら三役員が退陣しなければならない理由についても的確な回答はされなかった。
(5) このような議論が展開された後、出席理事らから原告に対し辞任を求める意見が出されたが、原告はこれを受け入れなかった。そこで、藤木常務理事から原告の代表権を剥奪し、非常勤理事とするとの緊急動議が提出され、採決の結果、議決権を有する理事一六名のうち、一四名が賛成、一名(古谷理事)が保留、一名(原告)が反対で右動議が可決された。
(三) これに対し、原告は、キョート・ファイナンスの不良債権の処理についての議論をきちんとすべきだと話そうと思ったが、本件決意書を書いて配ること自体けしからんということばかりに話が終始し、事の重大性について話をし続けたけれども、一切それは受け付けてもらえず、本質論に触れる前に決を採った旨供述する(原告四三~四四頁、一〇五頁)。
そして、本件理事会後に開催された本件総代会での発言録(乙一五)及び録音テープ(検乙一、二)からうかがわれる井上理事長の議事進行や発言の態度等から鑑みるに、本件理事会における議事は、原告が指摘するように、原告に対しかなり糾問的なものであったであろうことが推測され、また、事前に議題を知らされずに招集された場であったことも併せ考えれば、原告に十分な釈明の機会が与えられたかについては、疑問なしとはしない。
しかし、原告と他の理事らとの間に、キョート・ファイナンスの不良債権と被告との関係についての根元的な認識の相違があり、議論が十分噛み合わなかったと考えられること、キョート・ファイナンスの買取先や本件決意書の作成者等、他の理事らの当然ともいうべき質問に原告が十分応答しなかったこと等からすれば、多少糾問的な雰囲気があったとしてもやむを得ないところであり、前記認定の議論の概要と審議時間が二時間余に及んだこと、原告の発言ないしその機会も少なからず存在したとみられ、その発言を抑圧したような状況もうかがわれないことからすれば、本件理事会決議に至るまでに、会議の実体があったというに足りる議論がなされたと認めるのが相当である。
(四) したがって、決議が不存在といい得るほどの瑕疵があったとは、到底認めることができない。
3 以上に述べたところから、本件理事会決議の存在が認められる。
二 争点1(二)(本件理事会決議の無効事由の有無―招集手続の重大な瑕疵)について
前記一1のとおり、本件理事会の招集手続には、定款違反を認めることはできず、招集手続の定款違反の事実を前提とする、本件理事会決議が無効である旨の原告主張には理由がない。
三 争点1(三)(本件理事会決議の取消事由の有無―理事解任の正当事由)について
原告は、信用金庫の公共的性質を強調し、代表理事を解任するためには、信用金庫との信頼関係の喪失等の正当な事由が認められることを要すると解すべきであると主張する。
信金法三九条は、信用金庫の理事につき、商法二五四条三項(会社ト取締役トノ間ノ関係ハ委任ニ関スル規定ニ従フ)及び同法二六一条一項(会社ハ取締役会ノ決議ヲ以テ会社ヲ代表スベキ取締役ヲ定ムルコトヲ要ス)を準用しており、信用金庫とその理事との間の関係は委任に関する規定に従い、代表理事は、理事会の決議をもって理事のうちから選任されるのであって、民法六五一条一項の準用により、信用金庫は、理事会の決議をもって、いつでも代表理事を解任することができると解される。会社と取締役との関係も同様に解されるところ、商法は、取締役について、「取締役ハ何時ニテモ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得」(同法二五七条一項本文)と規定し、この点を明らかにしている。信金法三九条は、信用金庫の理事について右規定を準用していないが、これをもって理事の解任には制約があると解することはできないし、やむを得ない事由なくして任期途中で代表理事を解任されたことによって生じた損害は信用金庫が賠償しなければならないと解されること(民法六五一条二項参照)は別論として、信用金庫の理事について、解任自体が制約されると解さなければならないほど、株式会社等との間に性質の差異が存在するともいい難い。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件理事会決議に取消事由があるとの原告の主張は採用できない。ちなみに、正当事由を要するとの見解をとるとしても、後記七において判断するように、本件の場合、解任を相当とする事由があったものと認められる。
四 争点2(一)(本件総代会決議1の無効事由の有無―理事会の発議に基づく総代会決議による理事解任の可否)について
本件総代会決議1は、理事会の発議により総代会で決議されたものであるところ、原告は、信用金庫の理事の解任は、信金法三八条の少数会員の請求による総会の決議による以外の方法ではできないと主張する。
確かに、信金法三九条は商法二五七条を準用しておらず、信金法三八条以外に理事解任について何らかの規定もしていない。そして、右少数会員の請求による解任については、解任の理由を記載した書面の提出(同条三項)、総会(又は総会に代わるべき総代会(信金法五〇条)。以下同じ)の会日の七日前までに解任請求にかかる役員に対しその書面を交付し、かつ、総会において弁明する機会を与えなければならない(同条四項)こと等、解任手続について解任を請求された役員の地位を保護する規定をおいている。また、最高裁昭和四一年一月二八日判決(民集二〇巻一号一四五頁)は、中小企業等協同組合は、中小企業等協同組合法(以下「中企法」という)四一条所定の改選手続によることなく、総会又は総代会の決議をもって理事を解任することは許されず、民法六五一条はこの点において準用がない旨判示している。
しかし、前記のとおり、信用金庫と理事の関係は委任関係であり、信金法三九条の準用する商法二五四条三項と委任の解除に関する一般規定である民法六五一条からすれば、信用金庫の理事の解任には、信用金庫から当該理事への損害賠償の問題を除いては何らの制約がないと考えるべきである。また、役員の選任と解任とは表裏一体の関係にあり、解任方法は、基本的には、選任方法と呼応しているべきであるところ、信用金庫の理事は、総会の議決をもって選任される(信金法三二条二項)のであるから、総会の決議をもって理事を解任することができると解するのが相当である。
原告の指摘する右最高裁判決は、中小企業等協同組合において、定款に定めがあれば、総会において理事を選任することができる旨の中小企業等協同組合法四一条一二項が新設される(昭和五五年法律七九号)前の事案であり、中小企業等協同組合の理事は選挙(指名推選の方法も選挙の一方法である)によって選任されることを前提とする判断であるから、中小企業等協同組合法と信金法とが条文の構成において類似しているとはいっても、本件は右判例の射程外であるというべきである。
また、原告は、株式会社において取締役の解任は特別決議事項とされている(商法二五七条二項)のに、信用金庫の理事が総会の普通決議により解任されるとするのは著しく不合理であるというが、信金法三八条所定の解任手続においても、総会員の五分の一以上の連署をもって解任請求があれば、当該理事の弁明の機会を与えなければならないものの、解任請求の理由がいかなるものであれ、総会の議に附さなければならないものであり、かつ、総会決議につき必要としている要件は「出席者の過半数の同意」であり(同条一項)、信金法三八条に基づく解任の場合と必ずしも均衡を失するものともいえない。
よって、本件総代会決議1は、理事会の発議によっては決議できない事項に関するものであり無効であるとの原告の主張には理由がない。
なお、原告は、信金法三八条による解任請求の場合には、前記のように解任請求にかかる役員に対する保護規定があるにもかかわらず、理事会の発議に基づいて総会の決議で解任され得るとした場合、かかる保障が法的に確保されていないことの不均衡を指摘する。
確かに右指摘は考慮されるべきであり、そのうち、事前の書面の送付については、理事会の発議による場合には、総会に先立ち、理事解任を提案する旨の理事会決議がなされることになるから、当該理事は、通常、解任理由をその時点で了知する機会があるといえることからすると、その保障の必要性は基本的に低いといえるものの、信金法三八条四項が総会において弁明する機会を与えている趣旨は、適正手続の保障を規定したものであるところ、この趣旨は、理事会の発議による場合にも及ぶというべきであり、総会における弁明の機会ないしその準備の機会が与えられなかった場合には、決議方法の法令違反に準じ、総会による理事解任決議が取り消されるべきものとなり得るというべきである。
これを本件の場合についてみると、原告は、本件理事会及び平成八年一〇月一一日の理事会にそれぞれ出席しており、その時点で解任理由を了知したものと認められ、かつ、一〇月一一日からでも本件総代会までは一〇日間あったのであり、また、乙一五、検乙一、二からすれば、原告は、本件総代会においてかなり詳細に発言しており、これらのことからすると、弁明の機会ないしその準備の機会を与えられなかったといえるような事情があったとは認められない。
よって、右の観点においても、本件総代会決議1に取消事由があるとはいえない。
五 争点2(二)(本件総代会決議1の無効・取消事由の有無―原告の理事解任につき正当事由の要否及び存否)について
前記三において述べたのと同趣旨において、信用金庫の理事を解任できる場合につき、一般の委任契約の解除の場合や、株式会社の取締役解任の場合等と別異に解することはできず、信用金庫は、理由の如何に関わらず、任期途中の理事を解任することができるというべきである。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件総代会決議1は無効か、取消事由があるとの原告の主張は採用できない。
六 争点3(一)(二)(本件総代会決議2の無効事由及び取消事由の有無)について
これまでに認定したとおり、原告を理事から解任した本件総代会決議1に瑕疵はないものと認められる以上、本件総代会決議1が無効か、取消しを免れない結果、原告を含めた理事の人数が被告定款所定の理事の定員を一名上回ることになるとして本件総代会決議2は無効か、取消事由が存在するとの原告の主張は、その前提を欠くものであり、理由がない。
七 争点4(理事及び代表理事としての報酬ないし報酬相当額の請求の可否)について
原告を被告の代表理事から解任し、非常勤理事とする旨の本件理事会決議も、原告を被告の理事から解任する旨の本件総代会決議1も有効であり、かつ、取消事由も認められないので、平成八年一〇月以降の原告の理事(代表理事)としての報酬請求権の発生を認めることはできない。ただ、民法六五一条二項の趣旨に照らし、被告は、任期途中で原告を代表理事及び理事から解任したことにつき、やむを得ない事由がなければ、解任によって生じた原告の損害(一般には報酬相当額)を賠償しなければならないと解され、原告の報酬請求のは右の趣旨による損害賠償請求をも含むと解されるので、以下この点について検討を進める。
1 被告とキョート・ファイナンスの関係
原告には善管注意義務ないし忠実義務違反がなかったことについての原告の詳細な主張は、このやむを得ない事由の有無に関するものでもあると解されるところ、その中で、原告は、キョート・ファイナンスの不良債権を外資系企業に時価相当額で譲渡し、整理して売却する計画を検討していたと主張する。
そこで、まず、被告とキョート・ファイナンスとの関係について検討する。
(一) 前提事実4のとおり、キョート・ファイナンスは、被告が中心となって設立した会社であったが、昭和五〇年七月三日付け蔵銀第一九六八号・大蔵省銀行局長発「金融機関とその関連会社との関係について」(乙一)は、金融機関は、銀行法等により、その本来の業務に専念し他業を営むことが禁止されているとともに株式の保有が制限されている趣旨に顧み、その関連会社(金融機関が出資する会社で、その設立経緯、資金的、人的関係等からみて、金融機関と緊密な関係を有する会社)に行わせて差し支えない業務を金融機関の代理店業務、金融機関の業務に付随する業務等に限り、「関連会社に行わせてはならない業務を既に関連会社に行わせている場合には、当該会社と金融機関との関係の適正化を図るものとする。」としたため、被告と貸金業等を営むキョート・ファイナンスとの関係を「適正化」する必要が生じたところ、右通達と同日付けの事務連絡(乙一)においては、行うべき適正化措置の内容を次のとおり定めている。
(1) 当該会社の株式の保有比率を実質的に一〇パーセント以下にすること。
(2) 当該会社の商号を金融機関との関連を連想させないものとすること。
(3) 当該会社に対し、原則として役職員を出向させないこと。
適正化対象関連会社に対する金庫からの職員の出向については、適正化措置済後、三年以上を経過している会社に対する研修等を目的とした出向であれば、これを行って差し支えない。ただし出向者数は、当該会社の従業員総数(金庫からの出向者を除く)の二割程度以内とする。
(4) 当該会社に対する融資を通常の取引ベースに基づいて行うこと
(5) 当該会社の営業所を金融機関の建物内に設置しないこと
(二) 被告とキョート・ファイナンスの関係において、この適正化措置が達成されているか否かについて、粂田専務理事は、昭和五〇年に被告保有の株式は売却して、資本関係は処置を終えており、昭和六三年七月一日付けで、人的関係も断ち切る処置をし、大蔵省に対して適正化済みである旨を届けていると証言する(粂田<1>六~七頁)のに対し、佐藤弁護士及び原告は、両者の関係の実態は、適正化措置の趣旨を満たすものではない旨証言ないし供述する(佐藤一七~一八頁、原告二七~三六頁)。
適正化措置の要件のうち、商号や営業所の所在地の点は充足していることが明らかであり、問題となるのは、主に資本関係と人的関係の実態であるところ、平成四年六月一一日に被告が大蔵省近畿財務局に提出した「株式会社キョート・ファイナンスの再建計画について」と題する報告書(乙二六)においては、キョート・ファイナンスの資本における被告の実質支配は〇パーセント、キョート・ファイナンスの職員中に被告からの出向者はいないとされている。
(三) このような被告の大蔵省に対する報告内容につき、まず、資本関係においては、被告と被告の役職員が拠出する会費によって運営されている福利厚生団体である京都信用金庫共済会(現・京信若葉会)の株式保有比率が、平成四年三月末の時点で四二・五パーセントを占めていることが認められ(乙二六、原告二七~二八頁、粂田<1>九五~九六頁)、原告はその点を問題にする。
(四) 次に、人的関係については、被告からキョート・ファイナンスに出向した職員の待遇確保について、種々の協定が結ばれていることが証拠上、次のとおり認められる。
(1) まず、被告とキョート・ファイナンスの前身株式会社ジャルファイナンスとは、昭和五九年四月二日、被告の役職員を被告の負担において派遣し、派遣中の当該役職員の給与等は被告が支払う等の協定を結び(甲二四の四〇の二=出向に関する協定書)、続いて、昭和六二年九月三〇日、同年一〇月一日から昭和六三年三月三一日までの間の被告からキョート・ファイナンスに出向する職員の給与及び賞与の負担について、キョート・ファイナンスが五〇パーセントを負担する旨協定し、昭和六三年四月一日、同年四月一日から昭和六四年三月三一日までの期間について、同旨の協定を結んでいる(甲二四の三九の一・二)。
(2) そして、被告とキョート・ファイナンスとは、被告が人的関係を断ち切ったと主張する昭和六三年七月一日付けで、被告からキョート・ファイナンスへの出向者の給与・賞与等に関する待遇について、キョート・ファイナンスがその環境確保に鋭意努力するとともに、一定水準の待遇確保が困難となった場合には、双方協議の上で、被告に対し支援を要請することができ、被告はそれに対し必要な措置を講じる旨協定した(甲二四の三〇)。
(3) また、被告、被告における労働組合類似の組織である京都信用金庫職員会議の代表的人物、及び被告を退職したキョート・ファイナンス職員の間で、当該職員が被告に戻ったときの地位保証についての「証」ないし「確認証」が作成されており、これにより、被告は、出向者の身分の保全につき、刑事事件又は職務規程違反による解雇の場合を除き、被告に継続して勤務した場合と同等額の給与を支給すること、被告に復帰したときには、被告に継続して勤務した場合と同等以上の職位に任ずること、出向中に退職を希望する場合には、被告に復帰した上で退職とすること、出向期間は三年間とするが、継続を要する場合には、職員にその事情を説明し、京都信用金庫職員会議を交えた三者協議を行い、その承諾を得て、期間を延長することができること等が定められた。具体的には、いずれも被告出身のキョート・ファイナンス役職員である、湊和一について昭和六〇年四月一日、昭和六三年四月一日、平成四年七月一日、平成七年七月一日、川辺莞二、松木優和及び瀬戸茂につき、それぞれ昭和六三年七月一日、平成四年七月一日、平成七年七月一日の各日付けで確定日付つきで作成されている(甲二四の二六の一~四、二四の二七の一~三、二四の二八の一~三、二四の二九の一~三)。さらに、平成八年四月一日付けで、川辺莞二、松木優和、瀬戸茂の三名につき、被告から給与辞令が出されている(甲二四の三一~三三)。
(五) 以上が、被告とキョート・ファイナンスとが、大蔵省の方針である「適正化措置」の趣旨に合致した関係にあるか否かの上で問題となる主要点であるが、そのほかにも、両者の関係につき、次の事実を認めることができる。
(1) 被告は、昭和五一年四月一日に、キョート・ファイナンスの前身日本自動車ローン株式会社との間において、基本契約料月額一〇〇万円で信用調査業務を委託し、これを平成九年三月三一日に解除するまで継続していたこと(甲二四の四〇の一、二四の四一)、昭和五五年八月一日に日本自動車ローン株式会社と提携してローン業務を行い、同社の債務保証行為に関し、一定率の手数料を支払う旨の契約を締結し、この契約も平成九年ころまで継続していたこと(甲二四の四二の一・二)、被告の営業用自動車のほとんど全部がキョート・ファイナンスのリース車両で占められ、このような関係も平成九年ころまで続いていた(粂田<1>二四頁、一〇四~一〇六頁、原告一四頁)。
(2) 平成四年三月現在でのキョート・ファイナンスの出資先には、株式会社センチュリー、地域信用保証株式会社、株式会社京信システムサービス等被告と密接な関連を有する会社が含まれていた(乙二六、原告一二~一七頁、粂田<1>六〇~六二頁)。
(3) 平成四年六月時点での各金融機関のキョート・ファイナンスに対する貸付残高は被告が第六位である(乙二六)。
(4) 昭和六一年に被告が大蔵省の検査を受けた後、キョート・ファイナンスの大口貸出の残高の推移について同省から報告を求められたことから、一億円以上の融資案件について、適宜キョート・ファイナンスから報告を受け、概ね四半期ごとに残高推移表を作成して大蔵省に報告している(粂田<1>一二~一三頁)。
(5) 被告が平成四年六月にキョート・ファイナンスの再建計画案を大蔵省に提出した後、大蔵省の要請もあって、キョート・ファイナンスが債権者である金融機関を回って、第一回の再建計画につき説明して協力を要請する際、被告の役員が同行した(粂田<1>七六~七七頁)。
(六) キョート・ファイナンスについて、被告は、昭和六三年に適正化措置がなされ、その後は一取引先にすぎないということを強調するが、これまでに認定したキョート・ファイナンスの沿革・資本関係・被告との人的交流等からすると、被告とキョート・ファイナンスとが社会的には一体とみられているという原告の主張及び供述には一理がないわけではない。その意味では、平成八年当時において、キョート・ファイナンスの債務につき被告が責任を負わされる可能性が高いと判断するのは、決して荒唐無稽のこととはいえず、少なくとも、キョート・ファイナンスに対する債権者間の利益を調整する場面においては、被告のキョート・ファイナンスに対する立場に鑑み、被告がその有する債権や担保権を放棄するといった意味での責任を結果的に負わざるを得なくなることも考えられないではない。しかしながら、本件全証拠によっても、キョート・ファイナンスが抱える一〇〇〇億円ともいわれる不良債権の貸付について被告に法的責任があり、そのために被告以外の金融機関に対するキョート・ファイナンスの債務につき、全面的に被告が責任を負わなければならないという事態が現実のものとして想定されるところであったとまで認めることは困難である。
2 キョート・ファイナンスの不良債権買収計画と原告の行動
証拠(証人佐藤光則、原告本人のほか文中掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば、カーギル社のキョート・ファイナンスの不良債権買収計画及び本件総代会に至るまでの原告の行動に関し、次の事実を認めることができる。
(一) アメリカの穀物会社であるとともに、世界各国で投資を行っているカーギル社は、平成八年ころ、日本において、不良債権を一括して時価で買い取り、これを証券化し分割して売却する方針の下にプロジェクトを結成し、不良債権を時価で置い取る場合の税務上不利な運用を改めるよう大蔵省に働きかけるなどの活動とともに、破綻しそうな会社を物色し内情を調査していた(佐藤四、九~一三頁、原告七一頁)。
(二) その中で同プロジェクトは、被告とキョート・ファイナンスは一体であり、キョート・ファイナンスの一五〇〇億円近い貸付金のうち、暴力団関係者等問題ある先に一〇〇〇億円以上の不良債権を有していることがわかり、そのことが公にされると、自己資本一〇〇〇億円以下の被告がその責任を負わなければならないことになることが予想され、被告には破綻の危険があることから、被告にアプローチする余地があると考えられた(佐藤一四頁、二一~二三頁)。
(三) そこで同プロジェクトの一員である佐藤弁護士は、被告の関係者と接触を図ることにしたが、不良債権化したキョート・ファイナンスの融資に深く関わった者は、事実を隠したり、債権処理に対して妨害をする可能性がかなり高いので、これらの者を避け、同プロジェクトの調査によれば、被告執行部の中では、キョート・ファイナンスが被告以外の金融機関から融資を受けるに際して金融機関回りをしておらず、また、キョート・ファイナンスからの融資先についての月次報告を見せられていないなど、かなり関与度が低いと思われた原告に接触を図ることにした(佐藤二三頁、三九頁)。
(四) 佐藤弁護士は、原告の知人を介して、平成八年三月ころ、原告と最初に会った。その後も、佐藤弁護士や同プロジェクトのメンバーと原告とは頻繁に会い、原告は、佐藤弁護士らからキョート・ファイナンスの不良債権問題が被告にとって重大な問題であるとの説明を繰り返し受けた。当初、原告自身、被告と関連を有するキョート・ファイナンスの融資の不良債権化に対し何らかの解決方法を考えなければならないとの思いはあったものの、キョート・ファイナンスが闇世界に一五〇〇億円もの融資をしており、井上理事長ら三役員に責任があるなどという佐藤弁護士らの見解に必ずしも同調していたわけではないし、そのように判断する的確な根拠を有していたわけでもなかった。しかし、佐藤弁護士らと接触を続けるうちに、最初はさほど重大だと認識していなかった原告も次第に佐藤弁護士らの認識を受け入れるに至り、その後、平成八年の春から夏にかけて、原告も、被告を守るために、佐藤弁護士らに協力していこうということになり、被告内部での原告の行動計画などが話し合われるようになっていった(佐藤二四~二六、四九、七八頁、原告一三三~一三四)。
(五) 同プロジェクト及び原告は、キョート・ファイナンスの不良債権買取りを進めるうえで、情報交換をし、キョート・ファイナンスの融資先を月次報告等で認識しながらこれを放置してきた井上理事長ら三役員は、被告とキョート・ファイナンスとの一体性も承認せず、責任回避をするためにも、同プロジェクトの方針を受け入れず、妨害的行動に及ぶであろうと考え、右三役員と一緒に作業していくのは無理であり、現執行部を刷新するしかないとの判断に達し、この三役員を排除することがカーギル社側の条件とされた(佐藤三一、三三、四四頁、原告七一頁)
(六) そこで、原告と佐藤弁護士は、被告理事会での多数派工作として、脈のありそうな理事と接触を図ることにし(佐藤三四頁)、原告は、単独で又は佐藤弁護士とともに、次のとおり、被告の複数の理事らと個別に面会して、キョート・ファイナンスの不良債権を買い取ってもらう計画について協力を要請した。
(1) 平成八年夏ころ、原告と佐藤弁護士は、まず、勝山理事と会い、キョート・ファイナンス問題についての原告らの認識を説明したが、明確な反応はなかった(佐藤三四~三五頁、原告一一二頁)。
(2) 同年八月二四日、原告は、松井理事を電話でブライトンホテルに呼び出し、そこで佐藤弁護士を紹介し、佐藤弁護士共々、松井理事に対し、被告がキョート・ファイナンスの不良債権に深く関わっており、ある外資系の会社がその不良債権の買取を計画しており、それが成功すれば被告の責任が軽減されることになるなどと述べて、協力を求めた。松井理事は、キョート・ファイナンスの買取交渉と被告とは無関係であり、被告の理事の意見を求めること事態筋違いであるなどと述べた(乙二四の二、佐藤三四頁、原告一一三頁)。
(3) 同年九月一六日、原告は、榊田理事に会談を申入れ、都ホテルで会った。原告は、被告の創業者の孫である榊田理事が現体制に対し批判的で、被告が末期的症状であると憂えているように見受けられることから、同人に相談をすることにしたものであり、キョート・ファイナンスの件について、被告の貸付金九五億円だけでなく、キョート・ファイナンスの一五〇〇億円余の借入金自体を被告が母体行責任として引き受ける必要があり、そのような事態となれば被告が破綻すること、キョート・ファイナンスの買収を検討している外資系企業があり、それによって被告の破綻を回避できること、大蔵省あるいは買収側の条件として、井上理事長ら三役員の退陣が求められており、現経営陣を刷新して、原告が理事長代行として金庫経営にあたる所存であること、役員への働きかけをしており、榊田理事には、創業者一族の名誉にかけて一緒にやってもらいたいこと、キョート・ファイナンスを一括して売却することを研究課題としてもち、税制措置等がなされれば、そのような方向性で進めるべきではないかというような話をした(乙二三、原告三七~三九頁、一一三頁)。
(4) また、青木理事に対しても、被告本店内の原告の部屋で、被告がキョート・ファイナンスの債権について責任を負わなければならないという程度の話はしたが、同理事は、被告に母体行責任はないという反応であった(原告一一四頁)。
(七) 原告と佐藤弁護士は、要請に対しいったん賛同しておいて後で前言を翻されることを防ぐために、カーギル社の意向に基づき、趣旨に賛同する理事から書面を取っておくこととし、両者相談の上、佐藤弁護士の法律判断を加えて本件決意書(乙二)を作成した(佐藤五三頁、原告四一頁、八七~八九頁)。
そして原告は、同年一〇月二日、榊田理事に対し、その書面を示して、同書面上、専務理事や常務理事に選任が予定されている理事の一部(勝山・松井・成川理事ら)からは既に署名をもらっており、理事会決議に必要な九票が確保されているような説明をし、署名・押印を求めた。榊田理事は、同書面を入手するため、原告の求めに応じ、署名だけをし、同書面と同内容の書面を控えとして原告からもらい、それを持って井上理事長に報告した(乙二三の一、原告四二頁)。
そこで、役員全員が招集され、本件理事会が開催されることとなった。
(八) 原告は、本件理事会後の同年一〇月三日に、大蔵省銀行局中小企業課の佐川課長代理と面会し、被告とキョート・ファイナンスの関係についての見解を尋ねた(原告一〇七~一〇八頁)。
また原告は、同月七日に近畿財務局へ行き、寺内部長ほか二名と面談し、本件理事会の件が届けられているかどうかと、被告とキョート・ファイナンスの関係についての見解を尋ねるなどした(原告一〇九頁)。
(九) なお、原告や佐藤弁護士が売却を目指していたという不良債権はキョート・ファイナンスの保有するものであるにもかかわらず、佐藤弁護士は、キョート・ファイナンス側の人間とは誰とも折衝していない上、キョート・ファイナンスに対し債権を有する被告以外の金融機関に対しても、働きかけを検討したとはいいながら、具体的には接触を図っていないし、井上理事長ら被告の中枢にいる人物に直接会ったこともない(佐藤五九、七六、八五~八七頁)。
3 原告の言動についての評価
右のような経過からすれば、佐藤弁護士の言う不良債権買収計画自体どこまで具体化していたのか甚だ疑問であるし、キョート・ファイナンスの不良債権を買い取るのに、何故被告の代表理事である原告との接触を最優先したのかも理解に苦しむところであるが、カーギル社がそのような目論見をしていたことが事実であるとしても、佐藤弁護士を含むカーギル社の目的は、キョート・ファイナンスの不良債権を買い取ることであり、どのような条件で買い取るかは、カーギル社の利益を優先して検討されることはいうまでもない。そして、カーギル社は、被告とキョート・ファイナンスが一体の関係にあり、キョート・ファイナンスの不良債権について被告に母体行責任があるとの判断に立ち、その目的を達成するための障害となる可能性のある井上理事長ら三役員の退陣を買取の条件として原告に提示していたというのである。
被告とキョート・ファイナンスとの関係については、先に判断したように、社会的に一体性を指摘される余地がないとはいえないが、キョート・ファイナンスの不良債権について被告が全面的に責任を負わなければならないような状況にあったとまではいえないだけでなく、本件理事会での議論や原告が個別に一部の理事に接触した際の反応によってもわかるように、被告の大多数の理事は、被告とキョート・ファイナンスの一体性を否定し、キョート・ファイナンスの不良債権に対して責任を負う理由がないと主張していた。
原告において、これらの見解と異なる認識があり、的確な根拠があるのであれば、理事らに対し、自己の認識と根拠を披瀝し、被告の利益を擁護するために必要な対応策があるのであれば、それを開示して検討を求めるべきであり、それがカーギル社による不良債権の買取であると信ずるのであれば、その方針を明確に示すべきであろう。
しかし、原告は、現在においても、カーギル社の右のような行動が被告にとって利益となることさえ、明確にし得ていないといわざるを得ない状況の下において、そのような公然とした議論を避け、十分な根拠もなしに、理事の大多数の意見に反する方向で、独自に、かつ、自己の利益追及を主目的とするカーギル社の不良債権買取プロジェクトと密かに接触し、社内情報を提供するなどして、同プロジェクトと連携した行動を計画し、買取先も明かさず、いたずらに不安を募らせるような方法で個別に理事に働きかけを開始したものであって、その行為は、経営陣の一角である代表理事の行動として、理事ら役員間の、ひいては会員との間の信頼関係を破壊するに足りるものであり、代表理事としても、理事としても、善良なる管理者の注意を怠り、忠実義務にも反するものとの評価を免れない。
4 以上に述べたことからすると、被告が原告を代表理事及び理事から解任したことにはやむを得ない事由があったものと認められるから、報酬ないし報酬相当額の請求は理由がない。
八 争点5(被告の原告に対する不法行為の存否及び損害)について
前記七のとおり、被告が原告を理事から解任したことにはやむを得ない事由があるのであるから、解任したことそのものが不法行為にはなり得ない。
それとは別に、原告はさまざまな侵害を主張し、右主張に沿う原告の供述部分も存在するものの、右侵害を認めるに足りる的確な証拠はないといわざるを得ない。
したがって、不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
九 結語
以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないから、全て棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一一年一月二八日)